人新世に至る、モノを通した
自然と人間の相互作用に関する研究
Object-based Research of Nature-Human Interactions up to the Anthropocene (ORNHIA)
What’s new
研究項目
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1. アンデス文明では多様な生態環境を活用して安定した食料供給が確立され、余剰資源を背景に複雑な社会が形成されました。本研究では、考古試料を用いた各種安定同位体分析、また現生試料による同位体マッピングを通して、古代アンデス社会における資源利用と社会発展の関係を明らかにすることを目的としています。
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2. 安定同位体比の水平的な分布状況を地図上に書くことで、天気図や地質図のように安定同位体比の地図を描くことができます。これを同位体地図(isoscape)と呼びます。同位体地図を利用することで、人や物質の移動経路を復元することができます。本プロジェクトではさまざまな元素の同位体地図を作成し、それを公開することで自然科学だけでなく人文学分野の研究にも利用できる体制を整備することを目指します。
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3. 安定同位体(δ18O)・放射性同位体(14C)に着目し、文化財の年代、古気候、自然災害を高精度に復元して、自然と人類の関わりの歴史・変遷を明らかにします。また、「データベースれきはく」を基に、GISを活用しながら、人々の定住・移動を時空間的に復元したマップの作成を目指します。
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4. 連携公募共同研究:同位体環境学共同研究の枠内(S区分)で行う共同研究
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5. 本プロジェクトでは、考古学や人類学などの人文系研究に同位体比分析を取り入れた新たな学際的研究を推進しています。そのため、これまで同位体を扱ったことのない人文系研究者の方との新たな研究体制の構築を目指しています。「これまで同位体比測定はやったことはないけど、興味はある」という方への研究協力体制を構築し分析機会を提供します。
背景・目的
現在、私たち人類は様々な環境問題に直面しています。これら環境問題の多く(地球温暖化とそれに付随する気候変動、酸性雨、大気汚染、海洋・水質汚染、農業・土壌汚染、生態系の破壊など)は人類による資源(モノ)の利用によってもたらされています。これらの問題に対する解決策を模索する上で、人類の資源利用のあり方を考える必要があります。
自然の中を生きる人類は、過去から現代に至るまで環境中のさまざまな資源を利用して生活しています。例えば、水資源や食料資源は、飲み水や食用として、森林資源・鉱物資源などは人間により道具などに加工され利用されてきました。古代においては、人類は身近な環境・生活圏の中から得られた資源のみを利用していましたが、その後、交易の発達に伴い、空間的により広域から得られる資源を利用するようになりました。さらに、産業革命以降は、化石燃料という時間軸をまたぐ資源を利用するようになり、現代ではグローバルに空間・時間軸をまたぐ資源利用を行なっています。
物質を構成する元素の安定同位体比には、その元素の起源や元素が経験したプロセスに関する情報が記録されています。安定同位体比を用いた研究は自然科学の幅広い分野で既に多くの研究が行われています。近年では、考古学・人文学への応用も行われてきています。例えば、遺跡から発掘された人骨に含まれる各種元素の同位体比を測定することで当時の人間が食べていた食料や移動経路に関する情報が得られたり、遺物に含まれる元素の同位体比を測定することでその原材料となった物質の産地がわかり当時の交易などの情報を復元したりすることができます。
人類による資源利用とは、資源を提供する環境側の自然科学的な背景と、資源を利用する人間側の歴史的・文化的背景が複雑に絡み合った結果です。そのため、元素の濃度や同位体比から得られる自然科学的な情報と考古学や人類学などの人文学的な情報を併せて考える必要があります。本プロジェクトでは、身体や物質に含まれるさまざまな元素の濃度および同位体比を分析することで、各時代・各地域での人類による資源利用を明らかにすることで、人類と自然との関わりの変遷を探ることを目的としています。また、地球環境問題の根源となる自然と人間の相互作用を扱うための、自然科学と人文学をつなぐ新たな学際的な人間文化研究のプラットフォームを構築します。
研究体制
1.人新世に至る、モノを通した自然と人間の相互作用に関する研究
研究代表者
陀安一郎(総合地球環境学研究所・教授)
研究分担者
申 基澈 (総合地球環境学研究所)
近藤 康久 (総合地球環境学研究所)
大西 雄二( 総合地球環境学研究所)
米田 穣 (東京大学)
瀧上 舞 (国立科学博物館)
2.同位体による年代・古気候・交流史研究
ユニット代表者
坂本 稔(国立歴史民俗博物館)
研究分担者
齋藤 努( 国立歴史民俗博物館)
箱﨑 真隆 (国立歴史民俗博物館)
篠崎 鉄哉 (国立歴史民俗博物館)
瀧上 舞( 国立科学博物館)