同位体環境学がえがく世界

研究項目1. アンデス

インカ帝国やナスカの地上絵で知られるアンデス文明は、南米の太平洋側のアンデス山脈周辺で栄えた文明です。高くそびえるアンデス山脈や冷たいフンボルト海流により、アンデス山脈周辺には、砂漠から冠雪地帯、熱帯雨林まで、様々な生態環境が標高差に伴って存在しています。

アンデス文明では、社会の発展と共に環境ごとに偏在していた資源の開発や活用が進みました。しかし、文字が存在しなかったため、古代の資源利用に関する情報は日本に比べて非常に限られています。そこで地球科学的手法を考古学研究に応用することで、人類の資源利用・資源開発の変遷を明らかにしていきます。

古食性推定

食物は光合成回路の違いや栄養段階の違いにより、異なる炭素・窒素同位体比を有しており、ヒトや動物の体組織は摂取した食物の同位体比を反映しています。

発掘された動物骨や人骨の炭素・窒素同位体比を測定することで、動物やヒトが何をどのくらい摂取していたのかという古食性推定が行えます。トウモロコシを餌にした動物飼育の開始と伝播、またそれに伴うヒトの食性変化などを調査しています。

出身地推定

骨や歯の無機質に含まれるストロンチウム同位体比や酸素同位体比は、育った地域の違いによって異なる値を示します。

出土した古代人の歯のストロンチウム・酸素同位体比を測定することで、神殿遺跡に埋葬された人々の出身地の推定を行っています。特に黄金の副葬品や変形頭蓋を伴う特別な個体がどこから来たのかというテーマが注目されています。

同位体地図の作成

遺跡周辺のストロンチウムと酸素の同位体地図を作成し、動物の同位体比と比較することで、遺跡周辺の環境利用を考察できます。シカ狩猟を行った地域、リャマやアルパカの飼育を行った地域、それらの時代変遷などを推定することで、古代の環境利用や資源開発の変遷を追求します。