同位体環境学がえがく世界

同位体を使って
みんなで行っていること

環境のつながりを調べる
「同位体」を使って、行政、住民、
研究者が協力して、
さまざまな地域で環境研究に
取り組んでいます。
とくに、地下水や川に関して、
どんなことができるのか
実際の例を見てみましょう。

©︎furusawanatsuki

千の水をとって~千点の水の調査からわかったこと

愛媛県西条市

行政側の担当 愛媛県西条市役所環境課 平成19年~現在

西条市では、地下水の使用が多くなっているため、海水が侵入してきて、地下水の塩水化が進んでいました。そのままでは飲み水が塩水になってしまいます。。。

地下水の水質調査をするために「千の水をとってプロジェクト」が発足します。市民の協力のおかげで3ヶ月で千点の水を採取できました。

千点の水質・濃度が分かるマップが完成!
これで、現在の塩水化状況が一目でわかります。

西条市の地下水保全管理計画の改定において、この調査が科学的根拠になっています。

©あるがゆう

愛媛県西条市の西条平野では、地下水の塩水化が問題となっていました。水質を広域的に調べるために、西条市と総合地球環境学研究所によるプロジェクト「千の水をとって」が発足し、市民の協力で3か月で約1000地点の地下水を採取し、元素濃度や同位体比を測定することができました。

この調査により得られた、地下水の塩水化の状況が一目でわかるマップや、地下水位と加茂川流量の関係などの研究成果は、西条市の地下水保全管理計画の策定において、重要な科学的根拠となっています。

©あるがゆう

担当者の声

愛媛県西条市役所 環境課 Tさん

千点の住民の協力のもと、総合地球環境学研究所とコラボして調査を行い、帯水層の細かい状況(地下水の健康状態)がわかってよかったです。

千点の住民の協力のもと、総合地球環境学研究所とコラボして調査を行い、帯水層の細かい状況(地下水の健康状態)がわかってよかったです。

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忍野八海の水はどこからきているか?
みえない地下水の流れを知りたい

山梨県忍野村

行政側の担当 山梨県忍野村役場 平成28年度~現在

忍野村にある「忍野八海」は世界文化遺産に登録された地域の宝です。住民は忍野八海を守りたいと思っています。

しかし、八海の地下水面が高いため、雨が降ると地域住民は不安に思っていました。そこで排水路を適切な場所に設置するための「地下水流動調査」を始めました。

八海の地下水の流れを知るために、
実際にはさまざまな水を採取し、元素濃度や同位体を測定しています。
(現在もデータ蓄積のため採取継続中)

忍野村では中間報告のシンポジウムが開催され、
村民の関心・協力をもらいながら現在も調査を進めています。

©あるがゆう

山梨県忍野村では、地下水保全のために、忍野村役場、村の住民の方々、総合地球環境学研究所の研究者とともに、村内の地下水がどこからきたか(涵養標高)、地下水がどのように流れているか(流動、水みち、水脈)を調べています。

山梨県南都留郡忍野村には、世界文化遺産の構成資産として登録された「忍野八海」とよばれる湧水群があり、地下水が豊富です。

一方で、地下水位が高い地域では、大雨の時に川からの越流が起こるのではないかと、住民は不安に思っていました。そのため、川の水位を下げるための方策として河川隧道の建設案が出ましたが、やみくもに隧道を建設した場合に、忍野八海の地下水脈が切断され、水枯れなどが懸念されました。そこで、隧道建設を検討する前段階として、忍野八海を含めた村内の地下水脈(地下水の流動)や同位体などを用いた地下水の年齢・起源を知るための調査が行われています。2018年1月には、忍野村で中間報告のシンポジウム(忍野村公開シンポジウム「富士山の湧水と文化:忍野八海」-忍野の水はどこから来たの?-)が開催され、村民や住民の関心・協力をもらいながら現在も調査を進めています。

 

©あるがゆう

担当者の声

山梨県忍野村役場 企画課 O氏

生活に密接している地下水のことを住民に知ってもらうことの大切さを学んでいます。今後は富士山周辺の町村を巻き込んで一緒に調査できたらいいなと思います。

生活に密接している地下水のことを住民に知ってもらうことの大切さを学んでいます。今後は富士山周辺の町村を巻き込んで一緒に調査できたらいいなと思います。

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自分の家の井戸水はどこからきているか?

福井県大野市

行政側の担当 福井県大野市役所湧水再生対策室 平成25年~現在

平成24年に開催された「名水サミット」にて、地球研が西条市の同位体事例を紹介。そこに参加していた大野市前市長は「地下水を守るためには、科学的な根拠が必要だ!」と閃きます。

大野市は、山に囲まれ、城下町として昔から水の管理が仕組み化されています。現在も、家庭の80%が井戸水を利用しています。

大野市は平成26年から、小学4年生に水の大切さを学ぶ学習を実施しています。生徒たちは自分たちで水の調査を行ったり、下水・ゴミ処理について学んでいます。

現在、地域おこしや市の中長期的な水政策の中で、科学的な調査を進めています。活動には、多数の大学が協働し、水を介した関わりが今も広がっています。

©あるがゆう

福井県大野市は地下水が豊富で、古くから城下町として水の管理が仕組化されてきた地域です。

現在も、家庭の80%が井戸水を利用しています。

市では、地域おこしや中長期的な水政策の中で、科学的な調査を進めており、井戸水と河川のつながりが同位体などの調査から判明してきています。

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担当者の声

福井県大野市役所 湧水再生対策室 Kさん

水文化に興味がある方は是非大野市にお越しください。
地下水、食、生物、なんでもOKです。

水文化に興味がある方は是非大野市にお越しください。
地下水、食、生物、なんでもOKです。

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兵庫県千種川流域「住民主体の一斉水温調査が原動力となった河川環境解明の取り組み」

住民側 千種川圏域清流づくり委員会 2002年~現在

兵庫県千種川流域に暮らすYさんは、流域全体を感じられるような取り組みとして、たくさんの生き物がくらす千種川の「健康診断をしたい!」と考えました。

2002年から、毎年8月の第一日曜日に全流域約100地点で地元の住民主体による一斉水温調査をスタート。この調査では、膝まで川に入って水温を測るので、参加者が千種川の状態を肌で実感することができます。

調査をはじめるまでは、なんとなく感覚的に思い込んでいたことが、一斉水温調査を継続していくことで様々な発見が蓄積されています。「水生生物の生存を脅かすような高水温域の存在」、「支流ごとの水温分布」、「瀬と淵の重要性」、「湧水の存在」など

2015年からは、総合地球環境学研究所と神戸大学が参画をはじめ、そこで得た科学的知見は住民の方々に共有されています。今後の川や生物の生息環境を守る活動へ活かされています。

©あるがゆう

兵庫県西部に位置する千種川流域では、地元住民の手による「千種川一斉水温調査」が2002 年から毎年続けられています。調査を継続していくことで、 「支流ごとの水温分布」「瀬と淵の重要性」「湧水の存在」など、様々な発見が蓄積されています。

総合地球環境学研究所は2015 年より神戸大学とともにこの調査に参画し、水の詳細な化学分析を通して千種川の水環境の解明を目指しています。これまでに、カルシウムイオン、塩化物イオンなどの主要イオンの濃度を調べ、水質としての千種川の特徴を明らかにすることができました。また、様々な人間活動から川に排出される硝酸イオンについて、川の中の硝酸イオンがどこからきたか?を、硝酸イオンの窒素・酸素安定同位体比を用いて調査しています。地元住民による調査が原動力となり、千種川の水環境についてさまざまなことが明らかになってきました。

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滋賀県野洲川流域「野洲川のリンはどこからきているの?」

総合地球環境学研究所 栄養循環プロジェクト 2013年~2020年

リン(元素記号P)は生き物に欠かせない栄養元素のひとつです。一方、人間活動によってリンが大量に河川に流出すると、富栄養化や赤潮、アオコの原因になることがあります。富栄養化や水質悪化などの問題を解決するためには、河川へのリン起源を特定する必要があります。

近年、リン酸を構成する酸素の同位体比を調べることで、河川のリン起源を推定できる可能性が提案されています。この方法を使って、琵琶湖に流入する最長河川の野洲川を対象に、リンの起源を調査することにしました。

調査では、野洲川全域から20~40リットルの水を採取します。その合計は、800リットル以上になり、
その水をろ過したり濃縮したりする作業で研究者も一苦労。一つ20kgのタンクを何回も持ち運び、体がおかしくなるかと思いました。さらに、リン起源の候補となる試料(下水処理水、水田土壌、森林土壌、岩石、肥料)も採取して、すべての試料の実験処理にさらに1年以上が必要でした。

結果として、琵琶湖に流れ込む野洲川におけるリンの起源は、上流では主に岩石由来、中流では主に水田由来であることが判明しました。この評価方法によって、流域の水質改善策を考えるうえで、どの起源に重点的に対策を施せばいいのかを知ることができるということを世界で初めて示すこができました。

©あるがゆう

リンは、生き物に欠かせない栄養元素のひとつです。しかし、人間活動によってリンが大量に河川に流出すると、富栄養化や赤潮、アオコの原因になることがあります。
富栄養化や水質悪化などの問題を解決するためには、河川へのリン起源を特定する必要があります。
総合地球環境学研究所の栄養循環プロジェクトでは、琵琶湖に流入する最長河川の野洲川を対象に、リン酸を構成する酸素の同位体比(リン酸酸素同位体)を調べることで、野洲川のリンの起源を調査しました。
その結果、琵琶湖に流れ込む野洲川におけるリンの起源は、上流では主に岩石由来、中流では主に水田由来であることが判明しました。
この評価方法によって、流域の水質改善策を考えるうえで、どの起源に重点的に対策を施せばいいのかを知ることができるということを世界で初めて示すこができました。

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フィリピン、シラン・サンタローザ、
上流・下流のみんなで守る水のつながり
ー地下水の窒素汚染の「見える化」を契機としてー

フィリピンのラグナ湖のシラン・サンタローザ流域は、経済開発によって、下流域の河川環境の悪化と生物多様性の低下が深刻です。一方、上流域~中流域の一部では、川が遊びの場であり生活の場として利用する集落もあります。住民への聞き取り調査から、この流域では、水資源を全て地下水に依存しており、人々の地下水汚染・枯渇の問題への関心が高い事がわかりました。

住民の多くは現在も地下水を飲用しています。総合地球環境学研究所の栄養循環プロジェクトでは、シラン・サンタローザ地域の地下水を採取し、汚染の程度を調べるために重金属や硝酸イオンの調査のほか、汚染源を特定するために、同位体分析を行いました。

採取した水は日本に持ち帰り、地下水の中に有害な元素が含まれていないのかを調べました。また、地下水に含まれる窒素の起源を調べるために、硝酸イオンの安定同位体比を分析しました。結果、地下水には有害な重金属などの元素の汚染は無いことがわかりましたが、窒素汚染の場所がある事がわかりました。さらに、安定同位体比の情報から、窒素の起源は、流域の上流~中流で農業の肥料由来、中流~下流で有機質肥料と排水に由来することがわかりました。

栄養循環プロジェクトは現地の方々と協働で、これらの研究結果を地域の人と共有する発表する場「流域フォーラム」を開催し、多くの人が集まりました。参加者どうしでの議論、科学的知見の共有や、流域の上流から下流までの水のつながり[A water journey](Youtubeのリンクはこちら)の映像鑑賞を通して、人や流域の繋がりを実感。このフォーラムをきっかけに、行政に向けて「水管理の仕組み、制度」の要求がなされました。

©あるがゆう

総合地球環境学研究所 栄養循環プロジェクト(2013年~2020年)

フィリピンのラグナ湖のシラン・サンタローザ流域は、急速な経済成長と人口増加が起こっており、経済開発によって下流域の河川環境の悪化と生物多様性の低下が深刻です。
一方で、上流域~中流域の一部では、川が遊びの場であり生活の場として利用している集落もあります。この流域では、水資源を全て地下水に依存しており、人々の地下水汚染・枯渇の問題への関心が高い事がわかりました。
総合地球環境学研究所の栄養循環プロジェクトでは、シラン・サンタローザ地域の地下水を採取し、汚染の程度を調べるために重金属や硝酸イオンの調査のほか、汚染源を特定するために、硝酸イオンの窒素・酸素安定同位体分析を行いました。
その結果、地下水には有害な重金属などの元素の汚染は無いことがわかりましたが、硝酸態窒素の汚染がされている場所がある事がわかりました。
栄養循環プロジェクトは現地の方々と協働で、これらの研究結果を地域の人と共有する発表する場「流域フォーラム」を開催し、このフォーラムをきっかけに、行政に向けて「水管理の仕組み、制度」の要求がなされました。

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水源かん養林の水循環の全体像ってどうなっているの?
~神奈川県の水源環境を保全・再生するために

神奈川県では、水源環境を保全・再生する取り組みとして、森林管理事業を行い、その水循環への効果を調べるために、水源林エリアに数haの試験流域を設置し、水文モニタリング調査を長期的に行っていました。

水文モニタリング調査の結果、たくさんの研究成果は出てきました。しかし、成果を説明するには、数haの試験流域(小スケール)での結果から広域の水源林エリアでの水循環の全体像を示す必要があります。そこで、広域の水循環を把握するのに有効な同位体トレーサー研究を経験し、協力してくれる研究所を知っていた職員がいました。

こうして、自治体と地球研が連携した、広域の水源林エリアでのトレーサー研究が実現しました。水源林エリアにおいて地下水や湧水、河川水などの採水などの現地調査を行い、地球研の機器を利用し、水質や同位体などを分析することができました。

今までの水文モニタリング調査のデータ蓄積や研究成果と、水質・同位体トレーサーでわかったことを掛け合わせて、より広域スケールの水循環についての理解が深まりました。県民の皆様への説明、行政へのフィードバックなど、将来の水源林づくりの計画に役に立つ情報を得ることができました。

©安部 豊

神奈川県では、水源環境を保全・再生する取り組みとして、森林管理事業を行い、その水循環への効果を調べるために、数haの試験流域で水文モニタリング調査を長期的に行っていました。
研究成果を県民の皆様に説明するには、数haの試験流域(小スケール)での結果から広域の水源林エリアでの水循環の全体像を示す必要があります。そこで、地球研と連携し、広域の水循環を把握する水質・同位体トレーサー研究が実現しました。
今までの水文モニタリング調査のデータ蓄積や研究成果と合わせて、より広域スケールの水循環についての理解が深まりました。県民の皆様への説明、行政へのフィードバックなど、将来の水源林づくりの計画に役に立つ情報を得ることができました。

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